原子力災害に対する新たな支援体制の確立へ
2011年3月の東日本大震災、そして東京電力福島第一原子力発電所事故を教訓として、不測の事態に備える必要性を私たちは自覚しました。当時「想定外」とされたことは今では想定の範囲となり、国や自治体のみならず、病院や企業といったあらゆる組織において危機管理体制は不可欠になりました。その1つに原子力災害への備えがあります。
国による新たな原子力災害医療体制整備のため、長崎大学は2015年に「高度被ばく医療支援センター」と「原子力災害医療・総合支援センター」に、原子力規制委員会から指定されました。両支援センターは、本学の外に量子科学技術研究開発機構、弘前大学、福島県立医科大学、広島大学の国内5ヵ所(量子科学技術研究開発機構は基幹高度被ばく医療支援センターの指定のみ)に設置されており、災害発生地域だけでは対応できない専門的な医療や支援にあたる重要な任務を担います。両支援センターとしての使命を果たすべく、本学は2016年に「長崎大学原子力災害対策戦略本部」を設置し、原子力規制庁や自治体、他の支援センター、九州内の原子力災害拠点病院や原子力災害医療協力機関との緊密な連携体制を構築し、原子力災害医療に精通した人材の育成を行っています。
長崎大学にはこれまで蓄積してきた被ばく医療のノウハウがあります。原爆投下以降、現在に至るまで継続してきた被爆者医療をはじめ、チェルノブイリ原発事故被災者に対する医療支援や健康影響調査、東京電力福島第一原発事故後の緊急被ばく医療体制構築や復興への支援といった実績は、長崎大学の持つ大きな財産であるといえます。
本学の両支援センターは、九州内で原子力発電所が立地する佐賀県と鹿児島県、及びその隣接自治体である福岡県と長崎県を担当地域とし、各地域の被ばく医療体制の構築を支援し、原発内での事故が発生した場合には高度被ばく医療対応を、責任を持って行うことになります。さらに大規模原子力災害のみならず、原発の廃炉に伴う核燃料物質の除去作業等によって作業員が被ばくする場合にも備え、平時より体制を確立させておく必要があります。
長崎大学は原子力災害に関するあらゆる事態を想定して、関係機関との協働・連携支援の下、「常に備えよ」をモットーに担当地域の皆さんの安全・安心を担保する責任を果たしてまいりたいと思います。
(2022年3月)
※2023年4月より、福井大学が高度被ばく医療支援センターに指定されています。